●人生を変えるキッカケコトバ●

  前沢しんじ 2019年4月5日(金) 〔第1325号〕

 

 

『桜』  

 

 

●花には興味がないが桜だけは好きだ。毎年その花に

は感銘をうける。

 

一週間ほど前、三月も終わりのころか、まだ陽も明け

ない早朝、郵便局前を歩いていたら上から大きな雪が

降ってきた。

 

もちろんそれは桜の舞い落ちたものだったが、見上げ

ると今年初めて見る満開の桜だった。

 

数日後同じ場所を歩いていた。一陣の風とともに地面

にぐるぐると竜巻のように花が舞った。僕のまわりを

数秒の渦が巻いた。

 

桜の命はあまりにも短い。だからこそ人の心に、そこ

はかとなく、哀愁のように忍び込んでくるのかもしれ

ない。

 

 

●思えばもう十年以上も前か、出張帰りが真夜中にな

ってダム湖畔を車を走らせていたら、前が見えないほ

どの桜の猛吹雪に見舞われたことがあった。

 

ぼんやりとした街灯を覆って、薄桃のはなが降り注ぐ

光景がまだしっかりと脳裏に沈み込んでいて、この時

期になるといつも思いだす。

 

ふとSさんご夫婦といっしょに行った吉野の桜を感じ

て、あくる日電話すると奥様が出た。

 

「ああ、前沢さん・・・」

「主人は先日亡くなったんです」

「・・・・」

 

あの夜中に遭遇した桜吹雪は、Sさんからのサヨナラ

のあいさつだったのか。

毎年この季節になるとそのことを思いだす。

 

どこに出かけても自分流にぶらっと宿を出ていって、

アイスクリーム屋の前に行けばかならず見つかる人

だった。

 

満州生まれの大陸的な感性の持ち主で、市の要職を務

めたが激務のあまり腎臓をやってしまったような好漢

でもあった。

 

退職後はいろんな誘いを断って自由に生き、ぶっきら

ぼうに、奥様を大事にした人だった。

奥様はずいぶん長い悲しみの淵にいたが、数年後ご主

人のもとへ旅立った。

 

あの世というところに

さくらがあるのなら、

 

いまごろは、

その木の下で、

ふたりして、

 

・・・・・・・・・・・

 

 

●次号も桜の思い出を。

 

 

 

 

 

■人生を変えるキッカケコトバ《バラエティ人生論》
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